2019年3月17日日曜日

ああ無常「鷺娘(さぎむすめ)」(舞踊鑑賞室)






妄執(もうしゅう)の雲晴れやらぬ 朧夜(おぼろよ)の恋に迷ひし 我が心
忍ぶ山 口舌(くぜつ)の種の恋風が

吹けども傘に雪もつて
積もる思ひは 泡雪(あわゆき)
消えて果敢(はか)なき 恋路とや
思い重なる胸の闇
せめてあはれと夕暮れに
ちらちら雪に濡れ鷺の しょんぼりと可愛(かわゆ)らし

迷ふ心の細流(ほそなが)れ ちょろちょろ水の ひと筋に
怨みの外(ほか)は白鷺の 水に慣れたる足どりも
濡れて雫(しずく)と消ゆるもの


平成4年、仙台電力ホール、歌泰会「鷺娘」


我れは涙に乾く間(ま)も 袖干しあえぬ月影に
忍ぶその夜の話を捨てて

===通常版
縁を結ぶの神さんに 
取り上げられし嬉しさも
===★9代目 市川団十郎版
縁を結ぶの神さんに
怨みて初手は ついひぞりごと 届かぬ思ひ 浮名立つ
ほんに涙の氷柱(つらら)さえ 解けて逢う夜の睦言(むつごと)
===
余る色香の恥づかしや


平成4年、仙台電力ホール、歌泰会「鷺娘」

須磨の浦辺で汐汲(しおく)むよりも
君の心は取りにくいさりとは 実(じつ)に誠(まこと)と思はんせ
繻子(しゅす)の袴(はかま)の襞(ひだ)とるよりも
(ぬし)の心が取りにくいさりとは 実(じつ)に誠(まこと)と思はんせ
しやほんにえ
白鷺の 羽風(はかぜ)に雪の散りて 花の散り敷く 景色と見れどあたら
眺めの雪ぞ散りなん 雪ぞ散りなん

憎からぬ 恋に心もうつろひし
花の吹雪の 散りかかり
払ふも惜しき袖笠(そでがさ)
笠をや 傘をさすならばてんてんてん日照傘(ひでりがさ)
それえそれえ
さしかけていざさらば


平成4年、仙台電力ホール、歌泰会「鷺娘」


花見にごんせ吉野山
それえそれえ
匂ひ桜の花笠(はながさ)
縁と月日を廻(めぐ)りくるくる 車傘(くるまがさ)
それそれそれ さうじゃえ
それが浮名の端(はし)となる

添ふも添われず あまつさえ
邪慳(じゃけん)の刃(やいば)に先立ちて
この世からさへ剣(つるぎ)の山


平成4年、仙台電力ホール、歌泰会「鷺娘」


一樹(いちじゅ)の内に恐ろしや
地獄のありさま ことごとく
罪を糺(ただ)して閻王(えんおう)
鉄杖(てつじょう)まさに ありありと
等活畜生衆生地獄(とうかつちくしょう しゅじょうじごく)
あるいは叫喚大叫喚(きょうかん だいきょうかん)
修羅の太鼓(たいこ)は隙(ひま)もなく
獄卒四方(ごくそつよも)に群(むら)がりて
鉄杖(てつじょう)振り上げ鉄(くろがね)
(きば)噛み鳴らして
ぼつ立てぼつ立て

二六時中(にろくじちゅう)がそのあいだ くるり
くるり 追ひ廻(めぐ)り 追い廻(めぐ)
(つい)にこの身は ひしひしひし
憐れみたまえ
我が憂身(うきみ)
語るも涙(なみだ)なりけらし



平成4年、仙台電力ホール、歌泰会「鷺娘」


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宝暦12年(1762)、江戸・市村座初演
2代目 瀬川菊之丞(1741~1773年)が踊った四変化舞踊「柳雛諸鳥囀(やなぎにひなしょちょうのさえずり)」のひとつ。


四変化舞踊(上の段)
長唄「鷺娘」
長唄「うしろ面」
長唄「けいせい」
長唄「布袋」

■作詞:不詳
■作曲:初代 富士田吉次(1714~1771年)・杵屋忠次郎(生没年不詳)


※  舞台ができるまで。長唄「鷺娘(さぎむすめ)」(舞踊鑑賞室)
※  涙の氷柱が溶けるとき「鷺娘(さぎむすめ)」という踊り
※  妖怪になった鷺娘、長唄「鷺娘(さぎむすめ)」全訳




「鷺娘」と呼ばれる演目だけ数えても、邦楽年表の上演記録には3種類あり、歌詞のヴァリエーションは無数にあります。今回は9代目 市川団十郎がアレンジしたもの(★の部分)をまじえ、紹介させていただきました。

写真は水木歌惣のもの、本文は水木歌惣事務局・上月まことが書いています。コピーや配布には許諾を得ていただくよう、お願いします。Copyright ©2019 KOUDUKI Makoto All Rights Reserved.







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