妄執(もうしゅう)の雲晴れやらぬ 朧夜(おぼろよ)の恋に迷ひし 我が心
忍ぶ山 口舌(くぜつ)の種の恋風が
吹けども傘に雪もつて
積もる思ひは 泡雪(あわゆき)の
消えて果敢(はか)なき 恋路とや
思い重なる胸の闇
せめてあはれと夕暮れに
ちらちら雪に濡れ鷺の しょんぼりと可愛(かわゆ)らし
迷ふ心の細流(ほそなが)れ ちょろちょろ水の ひと筋に
怨みの外(ほか)は白鷺の 水に慣れたる足どりも
濡れて雫(しずく)と消ゆるもの
平成4年、仙台電力ホール、歌泰会「鷺娘」 |
我れは涙に乾く間(ま)も 袖干しあえぬ月影に
忍ぶその夜の話を捨てて
===通常版
縁を結ぶの神さんに
取り上げられし嬉しさも
===★9代目 市川団十郎版
縁を結ぶの神さんに
怨みて初手は ついひぞりごと 届かぬ思ひ 浮名立つ
ほんに涙の氷柱(つらら)さえ 解けて逢う夜の睦言(むつごと)も
===
余る色香の恥づかしや
平成4年、仙台電力ホール、歌泰会「鷺娘」 |
須磨の浦辺で汐汲(しおく)むよりも
君の心は取りにくいさりとは 実(じつ)に誠(まこと)と思はんせ
繻子(しゅす)の袴(はかま)の襞(ひだ)とるよりも
主(ぬし)の心が取りにくいさりとは 実(じつ)に誠(まこと)と思はんせ
しやほんにえ
白鷺の 羽風(はかぜ)に雪の散りて 花の散り敷く 景色と見れどあたら
眺めの雪ぞ散りなん 雪ぞ散りなん
憎からぬ 恋に心もうつろひし
花の吹雪の 散りかかり
払ふも惜しき袖笠(そでがさ)や
笠をや 傘をさすならばてんてんてん日照傘(ひでりがさ)
それえそれえ
さしかけていざさらば
平成4年、仙台電力ホール、歌泰会「鷺娘」 |
花見にごんせ吉野山
それえそれえ
匂ひ桜の花笠(はながさ)
縁と月日を廻(めぐ)りくるくる 車傘(くるまがさ)
それそれそれ さうじゃえ
それが浮名の端(はし)となる
添ふも添われず あまつさえ
邪慳(じゃけん)の刃(やいば)に先立ちて
この世からさへ剣(つるぎ)の山
平成4年、仙台電力ホール、歌泰会「鷺娘」 |
一樹(いちじゅ)の内に恐ろしや
地獄のありさま ことごとく
罪を糺(ただ)して閻王(えんおう)の
鉄杖(てつじょう)まさに ありありと
等活畜生衆生地獄(とうかつちくしょう しゅじょうじごく)
あるいは叫喚大叫喚(きょうかん だいきょうかん)
修羅の太鼓(たいこ)は隙(ひま)もなく
獄卒四方(ごくそつよも)に群(むら)がりて
鉄杖(てつじょう)振り上げ鉄(くろがね)の
牙(きば)噛み鳴らして
ぼつ立てぼつ立て
二六時中(にろくじちゅう)がそのあいだ くるり
くるり 追ひ廻(めぐ)り 追い廻(めぐ)り
遂(つい)にこの身は ひしひしひし
憐れみたまえ
我が憂身(うきみ)
語るも涙(なみだ)なりけらし
平成4年、仙台電力ホール、歌泰会「鷺娘」 |
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宝暦12年(1762)、江戸・市村座初演
2代目 瀬川菊之丞(1741~1773年)が踊った四変化舞踊「柳雛諸鳥囀(やなぎにひなしょちょうのさえずり)」のひとつ。
四変化舞踊(上の巻)
長唄「鷺娘」
長唄「うしろ面」
長唄「けいせい」
長唄「布袋」
■作詞:不詳
■作曲:初代 富士田吉次(1714~1771年)・杵屋忠次郎(生没年不詳)
※ 舞台ができるまで。長唄「鷺娘(さぎむすめ)」(舞踊鑑賞室)
※ 涙の氷柱が溶けるとき「鷺娘(さぎむすめ)」という踊り
※ 妖怪になった鷺娘、長唄「鷺娘(さぎむすめ)」全訳
「鷺娘」と呼ばれる演目だけ数えても、邦楽年表の上演記録には3種類あり、歌詞のヴァリエーションは無数にあります。今回は9代目 市川団十郎がアレンジしたもの(★の部分)をまじえ、紹介させていただきました。
写真は水木歌惣のもの、本文は水木歌惣事務局・上月まことが書いています。コピーや配布には許諾を得ていただくよう、お願いします。Copyright ©2019 KOUDUKI Makoto All Rights Reserved. |
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