清元「傀儡師(かいらいし)」は本名題(ほんなだい)を「復新三組盃(またあたらしく みつの さかずき)」と言い、文政7年(1824)江戸・市村座において3代目 坂東三津五郎が初演した三変化舞踊です。2代目 桜田治助作詞、初代 清元斎兵衛作曲、松本五郎市振付と、伝わります。
※ 浮世化傀儡師と外記傀儡師
※ 清元「傀儡師(かいらいし)」全訳
////// 歴史
「傀儡師(かいらいし)」という言葉自体は、操り人形を扱う大道芸人の古称です。
古代から中世にかけてのこと、わが国に、男子は狩猟し女子は売笑しながら人形を回し見物料をとる、謎の漂白芸人・流民集団がありました。この人々が渡来人と噂されていたことから、日本語の「くぐつ師」ではなく、中国語の「傀儡師(かいらいし)」と呼ばれています。
この人々はのち浄瑠璃と出会って人形浄瑠璃の成立に貢献し、浄瑠璃運動に吸収される形で、流民集団としては平和裏(へいわり)に消滅してゆきます。
平成10年、歌泰会「傀儡師(かいらいし)」 |
なお、古浄瑠璃にかつて「外記節 (げきぶし) 」という流派があり、現在の浄瑠璃よりも硬派な内容だったと伝わります。この外記節初代 薩摩浄雲(さつま じょううん、1593~1672年)の門弟から曲をゆずられた初代 河東(かとう=江戸太夫河東、1684~1725年)が発表したのが河東節「浮世傀儡師(うかれ かいらいし)」(1718年)で、そのあと外記節復活を目指し、長唄の「傀儡師(外記傀儡師、げき かいらいし)」(1815年)が作られます。一番最後に成立した歌舞伎舞踊曲・清元「傀儡師(復新三組盃、1824年)」は、これら先行する「傀儡師」から影響を受けた内容になります。
////// 内容
外記節「傀儡師」をもとに三人息子(吉三はそのひとり)の物語が語られ、お七吉三(郎)の恋路を揶揄する弁長(=櫓お七の登場人物)の「チョボクレ(錫杖、鈴、木魚など叩きながら唄い踊る門付芸=かどづけ げい)」が続き、牛若丸と浄瑠璃姫の伝説上の恋が語られたあと、幽霊である平知盛(たいらの とももり)が登場します。
平成10年、歌泰会「傀儡師(かいらいし)」 |
////// 演出
人形芝居 |
やっと盛り上がるのは、チョボクレ「やれやれ、やれやれ、おぼくれちょんがれちょ」あたりからでしょうか。
////// 歌詞(三人息子から、お七吉三まで)
夜鷹(舟で売笑する女) |
総領息子は親に似て
色と名がつきゃ夜鷹でも ごぜでも巫女でも市子でも
可愛いかわいが落合うて 女に憂身やつしごと
二番息子は堅造で ぽきぽき折れるとげ茨
三番息子は色白で
お寺小姓にやり梅の 吉三と名をも夕日かげ
-現代語訳-
跡取り息子は親に似て、
女と見れば遊女舟あやつる夜鷹だろうが、
目の見えない娘浄瑠璃の旅芸人だろうが、
神社の巫女だろうが、あやしげな回遊潮来(いたこ)だろうが、
かわいい、かわいそう、などと言って
隠れて遭(あ)っては女のことでやきもきし、
世間に公然とできないような隠しごとに、その身を削っている。
二番目息子は堅物で、茨(いばら)の棘(とげ)のような男。
三番目息子は色白に生まれ、寺小姓に売られて梅の花のように扱われ、
その名も「吉三」などと、夕日の日陰者のような、
生白い優男(やさおとこ)に育っちまった。
錦絵・櫓お七 |
-原文-
それとお七はうしろから 見る目可愛き水仙の
初に根締のうれしさに恋という字の書初を 湯島にかけし筆つばな
八百屋万の神さんに 堅く誓いし縁結び 必ずやいの寄添えば
そこらへひょっくり弁長が
いよいよ 色のみばえだち 差合くらずにやってくりょ
-現代語訳-
そんな吉三を、お七がどこかで見初(みそ)めたのさ。
小さく可憐な水仙に、初めて根締(ね じめ)をするようなもの。
恋しさがどんどん根っこに染み込み、
湯島天神さまへ奉納する書初めに、
お七はつたない文字で「恋」と書いたほどだった。
八百屋だけに、やおよろずの神さまに、縁結びを堅く誓ったわけだ。
必ず、寄り添ってみせると息巻くところへ弁長が現われ、
お嬢さん、色に目覚めたんでやしょうが、しくじらないようやってくんな、と。
錦絵「弁慶、知盛、牛若丸(義経)」 |
やれェどらがにょらい
やれやれやれやれ おぼくれちょんがれちょ
そこらでちょっくらちょっと聞いてもくんねェ
嘘ぢゃござらぬ 本郷辺りの八百屋のお娘が
十六ささげになんねえ先から
末は芽うどに 奈良漬なんぞと 胡麻せた固めを
松露(しょうろ)のしるしに きしょうが書いたり 小指を胡瓜ゃ
さりとはさりとは うるせえこんだに
奇妙頂礼(きみょう ちょうらい)どら娘 これはさておき
-現代語訳-
やいこら、どら如来、
やれやれやれやれ、おぼくれちょんがれちょ。
そこらでちょっくらちょっと聞いてもくんねェ。
嘘じゃありませんぜ、本郷あたりの八百屋のお嬢が、
十六にもなんねぇうちから
「末は夫婦(めおと)になりたい」なんぞ、ませた口をね。
約束のあかしだと言って起請文を書いたり、小指を切って捧げたり。
吉三にはさぞや、うるせえことだろうよ。
奇妙などら娘だよ。まぁ、それはさておきさ。
平成10年、歌泰会「傀儡師(かいらいし)」 |
手数が多く動きもあって難しいわりに、衣装が香具師(やし)なせいか華がない感じの舞踊です。ご見物さまを、チョボクレまで我慢させるのが少しばかり、たいへんです。
唄はめちゃくちゃ面白いのです。
どう魅せるか、ということを、あらためて考えさせられる演目ですね。
※ 清元「傀儡師(かいらいし)」の原型、浮世化傀儡師と外記傀儡師
※ 傀儡師よ永遠に。清元「傀儡師(かいらいし)」全訳
平成10年、仙台電力ホール「歌泰会」で踊った「傀儡師(かいらいし)」という踊りを、紹介させていただきました。
踊り説明記事は水木歌惣と水木歌惣事務局の共作になります。コメントは水木歌惣、本文は水木歌惣事務局・上月まことが書いています。コピーや配布には許諾を得ていただくよう、お願いします。Copyright ©2018 KOUDUKI Makoto All Rights Reserved. |
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