2018年12月15日土曜日

やさぐれ舞踊「まかしょ」全訳




告知はいろいろ出しましたが、平成30年、東京水木会舞踊公演のため、国立劇場で踊った「まかしょ」の舞台写真がやっと手元に届きましたので、あらためて演目について詳しく紹介させていただきますね。




////// 歴史

本名題(ほんなだい)を「寒行雪姿見(かんぎょう ゆきの すがたみ)」と言い、文政3年(1820)9月、江戸・中村座で3代目 坂東三津五郎が初演した七変化舞踊「月雪花名残文台(つきゆきはな なごりの ぶんだい)」の雪の部として登場しました。2代目 桜田治助(さくらだ じすけ)作詞、2代目 杵屋佐吉(きねや さきち)作曲、3代目 藤間勘兵衛(ふじま かんべえ)振付です。

絵草紙「まかしょ」

※「まかしょ」という踊り の記事は、こちらからどうぞ
※  速報!2018年第67回東京水木会舞踊公演(まかしょ)の記事は、こちらからどうぞ

ただし初演時の振付は失われ、現在では各流派それぞれに振付て踊っています。

江戸にはかつて「寒参り(かんまいり)」というものがあり、大寒・小寒の三十日間、信心や祈願のため白衣を着て、はだしで鈴を振りながら毎夜、神仏に参る行事です。

この寒参りを「代行しますよ」といって江戸市中を巡り歩く、怪しい「願人(がんにん)坊主」が「まかしょ」です。

現代でいう名刺代わりなのか、刷り絵の札を撒きながら歩いたため、子供たちが「まかしょ!(撒いておくれ)」と囃し立てたのが通称の由来のようです。






////// 歌詞(全訳)

-原文-
まかしよ まかしよ 撒(ま)いてくりよ
まつか諸方の門々に 無用の札も何んのその
構ひ馴染の御祈祷坊主 昔気質(かたぎ)は天満宮 今の浮世は色で持つ

-現代語訳-
まかしょ、まかしょ、絵札を撒(ま)いておくれよ。
そんな風に囃し立てられ、
(ま)こうとしたら、あちこちの門口に「物乞い無用」と貼ってある。
なんのかまうものか、こちとら、ご祈祷坊主さまよ。
昔かたぎの古臭い天満宮のお札じゃあるまいし、
おいらが撒(ま)くのは、浮世絵のような色のついた絵札だわい。

平成30年、東京水木会舞踊公演「まかしょ」

-原文-
野暮な地口絵(じぐちえ)餉箱(げばこ)から 引き出してくる酒の酔
妙見さんの七ツ梅 不動のお手に剣菱の ぴんと白菊花筏(しらぎく はないかだ)
差すと聞いたら思う相手に あほツ切り
煽る手許も足許も 雪を凌いで来たりける

-現代語訳-
そんな風に毒づきながら、
本当のところ野暮ったい地口絵を飯箱から引き出すや、
むっと立ちのぼる酒の匂い。
妙見(みょうけん)さまなら「七ツ梅(酒の名前)」、
お不動さんの手には「剣菱(けんびし、酒の名前)」が、
ぴんとした「白菊(酒の名前)」なら、「花筏(はな いかだ、酒の名前)」によく似合う。
お布施に盃(さかづき)を差してくれると聞きつければ、
「青ツ切り」茶碗で受けて、おもいっきり、ごくごく呑む。
酒で震える手も足も、雪を掻き分けるのに役立つぐらいなもの。

平成30年、東京水木会舞踊公演「まかしょ」

-原文-
君を思えば筑紫まで 翼なけれど飛梅(とび うめ)の 粋(すい)が身を食ふこの姿
ちよいとお門に佇みて とこまかしてよいとこなり ちよつとちよぼくる口車
春の眺めはナア 上野飛鳥の花も吉原
花の中から 花の道中柳腰
秋は俄にナア 心もうかうか
浮かれ烏(がらす)の 九郎助稲荷(くろすけ いなり)の 隅の長屋の年増が目につき
ずつと上つて門(かど)の戸ぴつしやり 締まりやつせ
あれあの声を今の身に 思い浅黄(あさぎ)の手拭に 紅の付いたが腹が立つ
そこを流しの神下ろし

-現代語訳-
菅原道真公に呼ばれ、大宰府まで飛んで行ったという梅の木のように、
おいら、酒のためなら筑紫(つくし)まででも飛んでゆこうぞ。
(すい)と酔(すい)とに蝕(むしば)まれた、おいらの姿をごろうじろ。
そう格好つけて、ちょいと門のところに佇んでから、
「とこまかしてよいとこな」と、チョボクレの口車を唄い始める。

平成30年、東京水木会舞踊公演「まかしょ」

春の眺めと言えばナァ、上野の山も飛鳥山も吉原の花も、
花の向こうからやってくる、花道中のお女郎たちの色っぽい柳腰こそ見どころよ。
秋は急に訪れて、心がふわふわするもんだ。
浮かれたあまり巣に帰ることを忘れた夜(よ)ガラスが、
(くるわ)に陣取る九郎助稲荷(くろすけ いなり)さまの、
隅の長屋の「曲見世(きょくみせ、格安の店)に出てる年増女に目を奪われ、
ずっとのぼって入ると、門をぴしゃりと閉めたのさ。
そこへ廓(くるわ)の閉まる「大引け」の声がかかり、「閉まりやすぜ」と、女が言う。
大引けのあとなら泊まりだからな。
今になって、女のあの声を聞いておけば良かったと後悔してる。
安物といえ、浅黄(あさぎ)の手ぬぐいに紅をつけられたのさえ、腹が立つ。
まぁでも、そこは流して神降(お)ろしへと進もうじゃないか。


-原文-
帰命頂来(きみょう ちょうらい)(うやま)つて申す
それ日本の神神は 伊勢に内外(ないげ)の二柱
夫婦妹背(ふうふ いもせ)の盃も 済んで初会の床浦明神
哀愍納受一呪礼拝 屏風の外に新造が 祭も知らずねの権現
櫺子(れんじ)の隙間漏る風は 遣手に忍ぶ明(あき)部屋の 小隅に誰を松尾明神
地色は坂本山王(さかもと さんのう)の 廿一二(にじゅういちに)が客取盛り
間夫(まぶ)は人目を関明神(せき みょうじん)
帰命頂来懺悔懺悔(きみょうちょうらい ざんげ ざんげ
六根罪障(ろっこん ざいしょう) 拗ねて口説(くせつ)を四国には
中も丸亀 名も高き 象頭山(ぞうずさん)
今度来るなら裏茶屋で 哀愍納受(あいみんのうじゅ)と祈りける
その御祈祷に乗せられて でれれんでれれん口法螺(くち ぼら)
吹く風寒き夕暮に 酒ある方を尋ね行く 酒ある方を尋ね行く

ー現代語訳ー
帰命頂来(きめいちょうらい、帰依します帰依します)、うやまって申しあげやしょう。
ソレ日本の神々というのは、まずは
伊勢(三重県伊勢神宮)内宮(ないぐう)にいまそかる
天照大御神(あまてらす おおみかみ)さまと、
外宮(げぐう)にいまそかる
豊受大御神(とようけ おおみかみ)さまとのふた柱(はしら)

平成30年、東京水木会舞踊公演「まかしょ」

夫婦妹背(めおと いもせ)の契りの盃(さかづき)を、
交わし終わった廓(くるわ)の初回の床入りならば、
床浦明神(とこうら みょうじん、広島県床浦神社)さまが良い。
仏教で言う「哀愍納受一呪礼拝(あいみんのうじゅ いちじゅらいはい)」というものは、
お仏さんはあたしら下々の願いを聞き届けるっつう、意味でやす。
屏風の外では見習い女郎が、騒ぎ声にも気がつかず、
ぐうぐう寝入ってやがる(子=ねの権現)
連子(れんじ)窓の隙間から洩れこむ風だけは、
人気女郎が遣手婆(やりて ばばあ)に隠れ、
空き部屋の隅にこっそり誰を待たしているのか(松尾明神=島根県佐香神社」)
その本当のところを、知っているのだろうよ。

「地色(ぢいろ)」と呼ばれる女郎の情夫は、
立ち去らなければいけないわけだ(坂本山王=滋賀県日吉大社は猿が使途獣)

女郎は二十一、二が稼ぎ盛り、
間男(まぶ)は人の目からは、
見えないようにならなければ、いけないわけだ(滋賀県関蝉丸神社)

帰命頂来(きめいちょうらい、帰依します帰依します)、ざんげ、ざんげ。
仏心をさまたげる六根罪障(ろっこんざいしょう)を去らせなさい、
あぁ、去らせなさい。
平成30年、東京水木会舞踊公演「まかしょ」

すねて口げんかをしないように(四国)
ふたりの仲が丸く良くおさまるように(丸亀、象頭山)
今度来るなら見世ではなくて裏通りの出会い茶屋でね、と冷たく言われ、
「哀愍納受(あいみんのうじゅ)、お仏さん、お願いだよ」と、祈ってみた。

その余韻でうかれたまま、でれれんでれれんと口ほら貝を吹きながら、
吹く風が寒くなった夕暮れに、おいら酒の匂いを探して歩く。
酒の匂いを、探して歩く。

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歌詞、内容がひどいです。ちょっと常人には、理解できないものがあります。踊りの華やかさ曲の明るさに比べ、暗くて破滅的な歌詞ですね。

まかしょ主人公の、こころの闇を体現するのは難しいことです。
うまく伝えられていれば、良いのですけれど。

※「まかしょ」という踊り の記事は、こちらからどうぞ
※  速報!2018年第67回東京水木会舞踊公演(まかしょ)の記事は、こちらからどうぞ

楽屋に帰ったわたしと、待っていてくれた差し入れのお花さん


いちばん下の写真は、物語をひきずったまま興奮状態で楽屋へ帰ったわたしと、お客さまが差し入れてくださったお花です。おもいっきり明るく華やかなお花に、こころが癒されました。ありがとうございました!

踊り説明記事は水木歌惣と水木歌惣事務局の共作になります。コメントは水木歌惣、本文は水木歌惣事務局・上月まことが書いています。コピーや配布には許諾を得ていただくよう、お願いします。Copyright ©2018 KOUDUKI Makoto All Rights Reserved.







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