水木流は江戸中期、「お狂言師」として活躍した水木歌仙(みずき かせん、1710~1779年)を初代とする流派です。「お狂言師」というのは、芝居小屋へ出かけることのできない大奥や大名屋敷の女性たちのため、女性だけで一座をかまえ歌舞伎の芝居や踊りをする狂言師のことです。
奥向きの舞台とはいえ歌舞伎を演じるため、お狂言師たちは実際に歌舞伎役者の一門に加わって修行し、名前を許されて活動しました。水木歌仙の師匠は元禄期の代表的女形で、所作ごと・変化(へんげ)ものを得意とした初代水木辰之助(1673~1745年、流祖)です。
水木辰之助は大阪生まれで屋号が「大和屋」、同じ「大和屋」に坂東三津五郎がいます。
現在の日本舞踊・坂東流は初代 坂東三津五郎(1745~1782年)の息子、3代目 坂東三津五郎(1775~1832年)を流祖とする流派で、同じようにお狂言師をたくさん抱えていました。
絵草紙・奥座敷でお狂言師演じる歌舞伎狂言を愉しむ女性たち |
水木辰之助も坂東三津五郎も女形ですが、女形はこの当時、ケレンや変化(へんげ)ものが売りでした。文化文政の頃に活躍した3代目 坂東三津五郎(1775~1831年)は
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「源太(げんだ、1808年、江戸・森田座初演)」
「汐汲(しおくみ、1811年、江戸・市村座初演)」
「浅妻船(あさづまぶね、1820年、江戸・市村座初演)」
「玉兎(ぎょくと=たま うさぎ、1820年、江戸・市村座初演)」
「まかしょ(1820年、江戸・市村座初演)」
「山帰り(1823年、江戸・森田座)」
「傀儡師(かいらいし、1824年、江戸・市村座初演)」
「申酉(さるとり、通称「お祭り」、1826年、江戸・市村座初演)」
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などの歌舞伎舞踊を発表し、好評を博(はく)します。
ケレンや変化ものが得意の女形を流祖とする一門ほど、たくさんのお狂言師を抱えていたということは、つまりそれだけ女形に人気があって、身分の高い女性たちが観たがったことを意味します。
平成22年、歌泰会「玉兎」 |
清元「玉兎(たま うさぎ)」は、本名題(ほんなだい)を「玉兎月影勝(たまうさぎ つきの かげかつ)」と言い、文政3年(1820)、『一谷嫩軍記(いちのたに ふたば ぐんき)』の二番目大切(おおぎり)に、七変化舞踊『月雪花名残文台』(つきゆきはな なごりの ぶんだい)のひとつとして、3代目坂東三津五郎が演じたものです。
本名題に「名残(なごり)」とあるのは、このあと坂東三津五郎が活動の拠点を大阪へ移すことが決まっていたからです。しかし演目辞典では、その後も3代目 坂東三津五郎の江戸での活躍が続きます。すぐ帰って来たようです。
◆七変化の内容
(1) 長唄「浪枕月浅妻(なみまくら つきの あさづま)」→現在の「浅妻船」
(2) 清元「玉兎月影勝(たまうさぎ つきの かげかつ)」
(3) 長唄・清元「狂乱雪空解(きょうらん ゆきの そらどけ)」
(4) 長唄「猩々雪酔覚(しょうじょう ゆきの よいざめ)」
(5) 長唄「寒行雪姿見(かんぎょう ゆきの すがたみ)」→現在の「まかしょ」
(6) 富本「女扇花文箱(おんなおうぎ はなの ふみばこ)」
(7) 長唄「恋奴花供待(こいのやっこ はなの ともまち)」
平成22年、歌泰会「玉兎」 |
月のウサギ(たまうさぎ)が、お婆さんを殺した悪い狸をお爺さんに代わって成敗した、カチカチ山の手柄話を自慢げに語り、
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年はおいくつ十三 七つ ほんにさぁ お若いあの子を産んで
やときなさろせ とこせとこせ 誰に抱かせましょうぞ お万に抱かしょ
もと歌「お月さまいくつ。十三ななつ。まだ年ぁや若いな。」
もと歌「あの子を産んで、この子を産んで、だぁれに抱かしょ。お万に抱かしょ。」
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と、わらべ歌を歌いながら餅をついて月見団子を仕上げる、
のどかな内容になっています。
平成22年、歌泰会「玉兎」 |
のどかですけれど、三津五郎作らしく振りは大きく、いさましい踊りで、幼い子どもだけでなく大人も踊る演目です。おとぎ話を題材にした愉(たの)しい踊りですが、運動量も多いです(はぁはぁ)。
平成22年に踊った写真を紹介させていただいてます。このときは素踊りに近い衣装になっていますが、男性が踊る際には褌(ふんどし)に裸襦袢(はだか じゅばん)、ウサギの耳に模した白いハチマキを巻いて出たりします。
※清元おそるべし「玉兎(たまうさぎ)」全訳、の記事はこちら
月のウサギの踊りと、水木流のほんのひとまくを、紹介させていただきました。
踊り説明記事は水木歌惣と水木歌惣事務局の共作になります。コメントは水木歌惣、本文は水木歌惣事務局・上月まことが書いています。コピーや配布には許諾を得ていただくよう、お願いします。Copyright ©2018 KOUDUKI Makoto All Rights Reserved. |
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