2018年10月13日土曜日

「保名(やすな)」という踊り(1)



だいぶ以前になりますが、平成8年に踊った
清元「保名(やすな)」という演目について、紹介させてください。

※「保名(やすな)」という踊り(2)の記事は、こちらからどうぞ
※  愛の物ぐるい「保名(やすな)」全訳 の記事は、こちらからどうぞ






////// 清元「保名(やすな)」概要

たいへん見どころ・語りどころの多い踊りです。

こころを病んだ若い男がぞろっとした身なりで出てきて、よろよろ、もぞもぞと動き回るだけの踊りなのですが、じつのところ、我が国・日本のほぼすべての歴史とアングラカルチャーを網羅する、深遠な文化的背景が隠されています。




////// 清元「保名(やすな)」物語の背景について

まず、その風変わりなタイトルですが、これは平安期に活躍した陰陽師・安倍晴明(あべの せいめい)の、伝説上の父親の名前です。実際の父親は記録がありません。

物語の舞台は大阪府和泉市にある「信太森(しのだの もり)」というところ、「聖神社(ひじり じんじゃ)」のあるところです。

聖神社の縁起は古く、神武天皇東征の際に天孫・瓊々杵尊(ににぎの みこと)を祀ったとする伝承と、天武天皇の御世(みよ)に渡来氏族である信太首(しのだの おびと)が聖大神(ひじり おおかみ)を祀ったとする伝承の、ふたとおりの言い伝えがあります。

聖大神(ひじり おおかみ)というのは『古事記』に登場する「大年神(おおとしの かみ)」の別名です。いわゆる「アイオーン(aeon=年神)」の日本版で、つまり「永遠をつかさどる神さま」です。


信太森(しのだの もり)は、平安時代の女流歌人・清少納言がその著書『枕草子』に「森は信太」と書き残したほど、古来、聖なる森として知られました。

その信太森(しのだの もり)が、平安時代初期に官幣社へ格上げされた秦氏の祖霊「稲荷神(伏見稲荷大社)」とその使徒獣(totem)である白狐(白蛇・白龍なども)の信仰に呑みこまれ、信太森(しのだの もり)の白狐(びゃっこ)伝説が生まれます。

聖大神(ひじり おおかみ)のいまそかる「永遠の森」で、保名は死んだ恋人「榊の前(さかきの まえ)」の御霊(みたま)を探して物狂い(ものぐるい)し、そこで出会った使徒獣・白狐と恋に堕ちます。そうして平安期の伝説的陰陽師・安倍晴明へ結びつくわけです。




////// 保名と白狐(びゃっこ)の恋について

舞踊のもととなった浄瑠璃「芦屋 道満 大内 鑑(あしや どうまん おおうち かがみ)」では、白狐は死んだ「榊の前(さかきの まえ)」の妹である「葛の葉姫(くずのは ひめ)」に化け、保名の妻に迎えられます。ふたりが暮らした聖神社近くの「阿倍野(現在の葛葉町)」には、今では「信太森葛葉稲荷神社(正式名称は信太森神社)」という神社が建てられています。




////// 振りと所作(踊りの中の芝居)について

「保名」はむずかしい踊りです。

平成8年、歌泰会「保名」

 (1) ぞろっとした衣装を着て、ふらふらと歩き回る
 (2) 女ものの着物である小袖を枝にかけて頬ずりしたり、撫でさわって泣いたりする
 (3) 子どものように蝶を追って振り返り、恋人のように小袖へ話しかける

このようにキリッとしない踊り・所作であるのに、白狐に「子を産んでも良い」と思わせるほど男性として色っぽくなくてはいけません(無理!)

※「保名(やすな)」という踊り(2)の記事は、こちらからどうぞ
※  愛の物ぐるい「保名(やすな)」全訳 の記事は、こちらからどうぞ


わたし、精一杯つとめました。
ほろびようとしている男の色気、出たのかなぁ。


踊り説明記事は水木歌惣と水木歌惣事務局の共作になります。コメントは水木歌惣、本文は水木歌惣事務局・上月まことが書いています。コピーや配布には許諾を得ていただくよう、お願いします。Copyright ©2018 KOUDUKI Makoto All Rights Reserved.






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