2018年10月24日水曜日

「保名(やすな)」という踊り(2)



仙台電力ホールで踊った清元「保名(やすな)」についての紹介の、続きです。
※「保名(やすな)」という踊り(1)の記事は、こちらからどうぞ
※  愛の物ぐるい「保名(やすな)」全訳 の記事は、こちらからどうぞ






////// 来歴について

説経節(せっきょう ぶし)『信太妻(しのだ づま)』や
瞽女唄(ごぜ うた)『葛の葉 子別れ(くずのは こわかれ)
などにもなった陰陽師・安倍晴明の父の物語は、享保19年(1734年)
浄瑠璃「芦屋 道満 大内 鑑(あしや どうまん  おおうち かがみ)
として文楽上演され、そのひとまくである「小袖ものぐるい」が舞踊曲・清元「保名(やすな)」になりました。




////// 元になった浄瑠璃のあらすじ、、、、

宮中につかえる陰陽師・賀茂保憲(かも の やすのり)の養女・榊(さかき)は秘伝書『金烏玉兎集(きんう ぎょくと しゅう)』を盗んだと疑われ、神仏に問うて身の潔白を証(あかし)するため、みずから命を絶った。

(さかき)と結婚の約束をしていた保憲(やすのり)の弟子・安倍保名(あべの やすな)は、恋人の亡きがらにとりすがって泣いたあと、精神に異常をきたし、笑いながら、どこへとも知れず消えてしまう。

同じころ榊の実家では、榊の妹・葛の葉が、不吉な夢に悩まされていた。

賀茂家へ養女に出された姉の身に何か悪いことが起きたに違いないとは思うが、どうしようもないので信太森(しのだの もり)へお参りしたところ、姉の小袖を神域の木の枝にかけ、姉の面影を慕って泣く美しい男を見て恋に堕ちる。

榊とそっくりな妹・葛の葉を見た保名の方も正気に返り、葛の葉を妻にしたいと懇願するが、同道していた榊と葛の葉の両親は「いったん情勢を見てから」と、ふたりの結婚を保留する。

そこへ悪党に追われた白狐が逃げ込んできて、保名は白狐を祠(ほこら)に隠して助けてやり、葛の葉とその両親を逃がしたあと、ひとり悪党と対決する。

悪党に斬られ命の瀬戸際に立った保名だったが、引き返してきた葛の葉に助けられ、ふたりで保名の生まれ故郷・安倍野を目指して旅立った。

葛の葉は安倍野で保名の子を産み育てるが、その正体は信太森(しのだの もり)で助けられた白狐であり、保名を追って現われた本物の葛の葉を前にすると「産まれた子に罪はない、どうか育ててあげて欲しい」と頼んで、泣く泣く信太森(しのだの もり)へ帰ってゆく。

白狐の子・安倍晴明(あべの せいめい)は長じて天皇(すめら みこと)につかえ、父・保名と父のいいなづけ・榊の名誉を回復する。




////// 物語に出てくる陰陽道について

ことの発端となった陰陽師の秘伝書『金烏玉兎集(きんう ぎょくと しゅう)』は、伝説では安倍晴明自身の作品とされていますが、史実上は安倍晴明より後年の作です。現在も国会図書館に写本が所蔵されています。


金烏(きんう)は太陽にいる三本足の金のトリ、玉兎(ぎょくと)は月にいるウサギで、太陽と月で「時間」や「歳月」「永久」を象徴します。

物語の舞台となる信太森(しのだの もり)は、聖大神(aeon)がつかさどる「永遠の(時間の)森」です。

時間を制するものは、天地を制するということでしょうか。
陰陽道思想の一端を垣間見せる秘伝書タイトルです。




////// 清元「保名(やすな)」の衣装について

武人(ぶじん)ではないため、薄い紫や白、ピンク色の衣装を着て踊ります。

平成8年、歌泰会「保名」

江戸紫の病鉢巻(やまい はちまき)を頭に巻いていますが、
これは古来「病(やまい)を治す」と言われたもので、
芝居などでは登場人物が病人であることを示します。


ただし、同じハチマキでも喧嘩をするためのハチマキや
祈願成就のためのハチマキもあり、
たとえば歌舞伎芝居「助六(すけろく)」のそれは
病鉢巻(やまい はちまき)ではありません。
※魚河岸(うお がし)のイナセなハチマキを真似たと言われます。

病鉢巻(やまい はちまき)は結び目が左、
喧嘩のときや祭(まつり)、仕事中の汗止めがわりに巻くハチマキは、
結び目を右や中央に置くことになっています。

あまり言及されることがありませんが、
日本のハチマキは外国の「ターバン(turban)」と同じです。

水木 歌惣
特に江戸期以降、髪型で階級を示す必要があったため、日本人に帽子の文化は広まりませんでした。役人の前で、髪を隠すことは禁じられていたのです。

だから天の力を特に借りたいと思うとき、髪を崩さないまま天の力を頭部に集中すべく、日本人はハチマキを用いました。ハチマキの色について、特に決まりはありません。

普段づかいの手ぬぐいを使うので、庶民のハチマキは派手な色ではありません。舞台では江戸紫になることが多いのは、照明を当てても色が変わらないからだそうです。
※「保名(やすな)」という踊り(1)の記事は、こちらからどうぞ
※  愛の物ぐるい「保名(やすな)」全訳 の記事は、こちらからどうぞ


恋わずらいを表現するときなどは、ピンク色の病鉢巻(やまい はちまき)になったりします。かわいらしいです。


踊り説明記事は水木歌惣と水木歌惣事務局の共作になります。コメントは水木歌惣、本文は水木歌惣事務局・上月まことが書いています。コピーや配布には許諾を得ていただくよう、お願いします。Copyright ©2018 KOUDUKI Makoto All Rights Reserved.







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